海の男たちの忘年会は、大阪の心斎橋で土曜日の7時から開催される。
心斎橋へは地下鉄御堂筋線の梅田から乗車するので、券売機で残高82円のICOCAにチャージしなければならなかった。
それは、券売機にICOCAを入れようとしたとき・・・・・

突然のことだった。

いきなり、後ろから若い女性の声が・・・・・
「すみません。」
「これ使ってください。」

振り向くと、20前後の清楚な感じの女性がカードのようなものを私に差しだしてきた。

若い女性に声をかけられるのは、高校生の時、ラブレターをもらって以来、道順を訊かれる以外ほとんど、いや正直に言うと全く記憶にない。
あまりの衝撃に、小心者のわたくしはびっくりしてしまった。

そのカードが、ラブレターではないことは一瞬で判断できたが、何かよくわからなかった。

「あの~何ですか?」
戸惑ったような口調でわたしは彼女に言った。

「これ、使えるんで使ってください」

よく見ると、地下鉄の1日乗車券のようなものだった。
『もう、自分にとって不要になったので、切符を買うんだったらこれを使ってね』 ということが、このときはじめて理解できた。

気の利いた、感謝の言葉がとっさに出てこなくて、「ありがとう」の一言に終わってしまった。

ホッとした幸せな気分で、海の男たちの忘年会に望める。
幸先のいいスタートだった。

帰りは、地下鉄梅田駅の券売機で、この幸せのバトンを2人連れの若い女性に託した。
今度は私の耳に「ありがとう」の言葉が届けられた。

いい一日だった。

ありがとう。