はじめに
いつもは拙者だが、過去に戻ったので僕になった
僕はそんなに勉強ができるわけでもなく、すごくスポーツができるわけでもない。

どこにでもいるような小学生だった。
そんな僕だけど、小学校5年生から掃除をした記憶があまりなかった。
なぜだろう?
記憶の糸を深く深く辿ってみると 少しずつ思い出してきた。
どうも掃除の時間は、必ずサボッていたようだ。
学級日誌には明確にこう記されていた。
悪い人
たけし君
掃除をしなかった。
学級日誌をどんどんめくっていくと、たけし君はバッチリとレギュラーの座を確保している
残念ながら、すべて悪役、悪玉なんだけど
登場しない日は休みの日くらいだった
考えてみると、プロレスと同じで悪玉がいるから善玉が光るというものだ。
だから、僕の役割はとても重要だったんだ。
日誌を見ると、他にもいろいろ書いてある
たけし君はホームルームでふざけていた
たけし君がスカートをめくった
たけし君が給食のおかずに正露丸を入れた
たけし君が女子の着替えをのぞいた
たけし君がわらかしたので給食が食べられなかった
思い出したら・・・・ まだまだありそう!
このくらいの年代にはいろいろな夢がある
僕もいろいろな夢を持っていた
なかでも、探検家になるという夢が一番だ
僕の作文には探検家が良く登場していた。
遊びも、探検隊を作って近所の神社や山なんかを探検したものだ。
ある日
校内をいろいろと探検していると、僕は親友のきよし君と体育館の床下に通じる秘密のドアを見つけた。
当時の僕たちにとって、コロンブスがアメリカ大陸を発見したよりもずっとずっと大きな発見だったんだ。
僕ときよし君は、ワクワクしながら秘密のドアをくぐって体育館の床下に入った
そこは、少し薄暗くはあったが、探検するには十分な明るさがあり、以外にも小学生の僕は腰をかがめることなく自由に移動ができる高さがあった。
そうだ、僕は掃除をサボってなんかいなかったんだ
掃除時間になると、きよし君といっしょに体育館の床下を探検したり、いっしょに話しをしていたので、まわりからは消えていた。 
いなかったというのが、一番正確な表現なんだ。
サボッた事実はいっしょだけどね。
おかしいなぁ!!!  今、思ったんだけど
どうして、きよし君は日誌に登場していなかったんだろう?
ずっと、僕といっしょにいたはずなのに???
世の中には説明できない不思議なことっていっぱいあるんだ。
でもね
悪玉だけど、僕は主役に抜擢されたんだから文句は言えない。
主役だよ! 主役!
いつしか体育館の床下は、僕たちの秘密基地になっていた。
そして、最初は僕たち2人だけだったんだけど
5人になり10人になり、クラスの男子全員になり、そのうち女の子もいっぱい増えてきた。
もうこうなると、床下で大鬼ごっこ大会なんかもするようになり、遊びのバリエーションもいっぱい増えた。
残って掃除をまじめにしていた女の子たちには、他の消えたみんなの居場所なんてわからなかった。
こんなことが続くと
掃除をさぼる次元ではなくなってしまった。
掃除時間になるとほとんどの生徒が蒸発! 大事件だ!  
ある日 誰かが、担任の宣子先生にこのことを知らせた。
きっと、この件の総責任者であり悪玉の僕が、裁きをうける
んだと思っていた。
宣子先生は怒ると ぞ~とするほど怖い ヤバイ!
宣子先生が僕らの秘密基地に入ってきた。
ワ~もうだめだ
アレアレ??
宣子先生 不思議そうに興味津々
ここすごく面白いね
この件はあっけなく終わった。
それからも、凝りもせず、僕ときよし君は秘密基地に行って掃除をサボっていたが、もう秘密でない秘密基地だから、すぐに見つかってしまう。
そして、学級日誌にはずっと僕のことが記されている。
今、思うと
主役の座はどうしても譲れなかったのかも知れない。
5年生から6年生へはクラスの変更がなかったので、みんなとても仲がよかった。
もちろん 担任は宣子先生だ
休み時間は全員でドッジボールをするし、球技大会で負けるとみんなで悔し泣きをした。
こうして、あっという間に楽しい2年間が過ぎた。
卒業の最後の日は、卒業する僕たち6年生と5年生で体育館全部を使った壮大な鬼ごっこが暗黙のもとに行われた。
もちろん、僕たちの秘密基地もこのときにはみんなの秘密基地になっていたのだ。
あれから、随分月日がたった。
もう、宣子先生には会えないけど
今でも秘密基地はあるんだろうな。
というわけで、回顧伝 僕たちの秘密基地はおわりです。